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意外なほど明るくて開放的毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。 今、山は紅葉の季節だ。葉は最後の生命を燃やすかのように、 持てる色彩の限りを出し尽くし、やがて落ちる。すると今度は、 地面は暖かな枯葉色になり、乾いた落ち葉の感触が心地好い季節になる。 そして、その上を白い結晶が舞うようになると、 いよいよ心ときめく雪の季節の到来だ。 雪の森と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。人によっては、 近寄りがたい、どちらかと言うと暗いイメージを持っているかもしれない。 しかし実際に歩いてみると、とくに落葉樹の場合、雪の森は意外なほど明るく、 開放的だ。樹々は葉をすっかり落とし、ヤブは雪の下に隠れるので、 森は遠くまで見通しが効く。そして全体を白い雪が飾り、 他の季節には感じられないほど、 明るい雰囲気になる。ふだんは生い茂る葉に隠れて見えない山も、 絶好の背景となって森を引き立ててくれる。 おまけにその中を、好きなところへ自由に歩いて行けるのだから、 気分はじつにのびやかだ。 例えばダケカンバとシラカバが混在する高原の森。 ベストコンディションは、一晩吹雪いた後の、快晴の朝だろうか。 葉を落とした枝は、こずえの先端まで真白にコーティングされて、 冬特有の濃紺の空をバックに、そのコントラストを際立たせている。 地面はすべて、やさしい曲線を描く白い雪で覆われ、 陽光を受けてキラキラと輝いている。 明るいのは晴れの日ばかりではない。例えば霧が流れるブナの森。 すべてがモノトーンの濃淡で表現される、水墨画の世界。 しかし雪の反射光のためだろうか、けっして薄暗い雰囲気ではなく、 間接照明のような、ほのかな落ち着いた明るさがある。 一方、常緑の針葉樹の森はどうだろうか。落葉樹の森と対照的に、 むしろ外界からの閉鎖性が、好ましい意味で強まる。 人家の裏からほんの少し入っただけでも、雪が積もった樹々に囲まれて、 外界から隔絶された雰囲気の森になる。雪の遮音効果も見逃せない。 山深い亜高山の針葉樹林はもちろんのこと、 あまり評判のよろしくないスギの植林でさえ、 アメリカ大陸のレッドウッドの森を彷彿させるような、 「何だかすごい所に来てしまったなあ」と感じさせる森に (とりあえず景観上は)変わってしまうのだから不思議だ。 森の深みが増す、とでも表現したらいいだろうか。 森を明るく開放的にしたり、静けさと深みを増したりという効果が、 雪には確かにある。おまけに「雪化粧」という言葉の通り、 雪はすべてのものを光の芸術に変える。例えばビルの上から見た街並みさえ、 雪の朝は見違えるほどになるではないか。その効果を、私は勝手に 「雪のホワイト・マジック」と呼んでいる。 いかがでしょう、少しは雪の森に出かけてみようか、 という気になっていただけましたか?。 (1997年10月12日掲載) |