木風舎 自然を感じるネイチュアリングスクール

雪の森を歩こう

毎日新聞に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録しました。


大きいネーミングの役割

毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。

ネイチャースキーって、最近よく聞く言葉だけれど、 いったい何だろう?と思っている方も多いかもしれない。 雪が降り始める前に、言葉と道具の話を少ししておきたいと思う。

ネイチャースキーは、ひとことで言えば、 スキーを使った雪の散歩やハイキングだ。それなら、 クロスカントリースキーとどこが違うの? という疑問を感じる方もいらっしゃると思う。じつは9年前に、 今やっているネイチャースキーの講習とほぼ同じ内容で講習を始めたときには、 タイトルをクロスカントリースキーとしていた。しかし二つの理由で、 ネイチャースキーと呼ぶようになった。

理由の一つは、クロスカントリースキーという言葉は、 あまりにも距離競技のイメージが強いからだ。 「雪の森をのんびり散歩しませんか?」と言っても、 「えーっ、クロスカントリースキーって、あのオリンピックで見る、 走り回るやつでしょう!私あんなハードなこと……」という反応が多いのだ。 まあ競技は競技で一つの素晴らしい世界なのだが、 どうも意図したことが伝わらないというのは困ったもんだ。 ひとつの遊びが普及するのに、ネーミングの持つ役割は大きい。 「自然を楽しむ」という目的が、ひとことで伝わるような、 普及に役立つネーミングはないものだろうか?  というわけで考えられたのが、このネイチャースキーという名前だ。

もうひとつの理由は、 道具としてのクロスカントリースキーを使っていないことだ。 クロスカントリースキーは、もともと大陸のような平坦な地形で、 トラックをジョギング感覚で楽しむために作られているために、 板はとても細く、エッジ(滑走面両側の金属)がなく、 形も滑りながら回転するようには設計されていない。 ブーツもとても柔らかいものだ。このスキーで、 高原といえども起伏の多い日本の野山に出かけると、 「景色は良かったんだけど、下りが怖くて…」とか、 「なんだ、下りが全然楽しくないじゃないか」 といった声が多くなってしまう。また、整備されたトラックと違って 、野山では細すぎるスキーはもぐりやすい。

そこで、私たちはテレマークスキーという道具を使うようになった。 テレマークスキーについては、次回で詳しく紹介したいが、 クロスカントリースキーを幅広にして、エッジをつけ、 ブーツをしっかりさせて、斜面や深雪にも適応できるようにしたもの、 と考えてほしい。この道具を使うことによって、 日本の地形でも楽しめる場所が格段に増えた。そして、 クロスカントリースキーに替わる言葉も必要になった

というわけで、ネイチャースキーは最初は造語だったのだが、 一般名詞としてほぼ定着してきた。 カタカナ語が増えるのはあまり良いことではないが、 ネイチャーとスキーなら、大部分の日本人が理解できる自然な言葉として、 許してもらえるだろうか。

(1997年10月19日掲載)

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