木風舎 自然を感じるネイチュアリングスクール

雪の森を歩こう

毎日新聞に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録しました。


自然を元手に利息で食べる

毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。

「前略 昨シーズンのネイチャースキーでお世話になった森と宿に、 今度は紅葉の季節に出かけてみました。 雪のときとはまた違う自然の表情が……。」私の事務所にこんな手紙が、 今年もたくさん届いた。ネイチャースキー講習を始めたとき、 じつはこの効果をねらっていたのだった。

ネイチャースキー講習を始めたきっかけは、 それまで通い続けていた大好きな森が、 スキー場造成でなくなってしまったときからだった。 ただそこへ遊びに来ていただけの人間にとって、 もしできることがあるとすれば、やはり同じ遊びに来る人間に、 「せっかくここまで来たのなら、自然そのものに目を向けてみようよ。 それは、環境のためにそうしなければならないからじゃなくて、 じつは楽しいことがいっぱいあるからなんだ。」と、 伝えることではないだろうかと考えた。

森をどう守っていけるのかという問題は、 やはり美しいとか大切だとかのきれいごとだけでは語れない。 地元で暮らす人にとって、ただ「ここの自然は学術的に貴重で…」 と言われても、ある意味では迷惑な場合すらある。問題は、 そこの自然で食べていけるのかどうかだ。 自然を壊して何かを作ることによって人を呼ぶのではなく、 状態の良い自然があることによって人が来てくれるのなら、 なにもあえて壊さなくてもいい、と大半の人は考えている。

森を楽しむネイチャースキーは、森を伐る必要がないばかりでなく、 他の季節にまで効果を及ぼす。 つまり、訪れる人はスキーよりもそこの自然が目的なのだから、 「この気持ちいい森は、新緑の頃はどんなだろう。ここが紅葉したら……」 という想像力が、いやでもかき立てられる。地元にとって、 1シーズンで何がなんでも稼がなければならない集中型よりも、 どのシーズンも平均して人が来る通年型のほうが、ずっと健全なのは確かだ。

スキー場さえあれば、黙っていても人が来た時代には、 「ブームには必ず波がありますよ。」と話しても、 ほとんど聞き流された。今、昨シーズンだけで3ヵ所の、 地元有志の方々の会合にお招きいただいた。 とくに宿泊業関係者の危機感は強く、 ペンションのオーナーなど若い世代は、 懸命に新しい時代の流れを読み取ろうとしている。そして、 とりあえず10軒程のペンションが数台ずつのレンタルを持ち、 お互いのやりくりで試験的に対応し始めた乗鞍高原や、 私たちの常宿が独自にレンタルをそろえた戸隠高原など、 まいた種は確実に広がりつつある。

人間も動物であるかぎり、 未来永劫にわたって求めてやまないであろう自然を元手にして、 その利息で食べていく発想は、やはりいちばん確実なのではないかと、 最近つくづく感じている。

(1997年11月9日掲載)

木風舎
〒166-0004
東京都杉並区阿佐谷南3-45-4
Mail: mokufu@mokufusha.com
Web: http://www.mokufusha.com/
TEL: (03)3398-2666
FAX: (03)3398-7448