木風舎 自然を感じるネイチュアリングスクール

雪の森を歩こう

毎日新聞に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録しました。


光が雪の色や表情を変える

毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。

いよいよネイチャースキーの楽しみを、 ライブでお伝えできる季節になってきた。ここ1週間ぐらい、 講習のために長野県・乗鞍高原に滞在している。 毎日雪の風景を眺めていると、雪の色や表情に、 じつに様々な変化があることに気がつく。

雪の色ってなに色?と聞かれたら、 大半の人は白と答えるだろう。 確かにシンプルな白を基調にしているからこそ、 雪化粧は美しく飽きない。でも雪は白いばかりでもない。 昨日の朝、少し早起きして窓を開けたときの雪は、 鮮やかなオレンジ色に輝いていた。 それは何ともエネルギッシュな光を放つオレンジ色だった。 新雪の晴天という幸運に、朝食を大急ぎで流し込んで、 スキーを履いて外に飛び出した。 こんなときは早く出るにかぎる。まだ気温が上がらないうち、 樹々の梢についた新雪が、落ちてしまわないうちに。

冬の晴天の空は、濃くて深みのある青だ。 空気中の水蒸気が少ないので、白く濁りにくいのだ。 その空をバックに、純白にコーティングされた樹の梢が、 見事なコントラストでたたずんでいる。遠くから、 静かな風の音が近づいてくる。待ちに待った、 雪が金色になる瞬間だ。太陽の方向を見上げる。 梢についていた粉雪が風に乗って舞い、 キラキラと輝く無数の金色の粒となって、 空間という空間を埋めつくす。 幻想的という表現しかしようのない、 ぜいたくな光の饗宴。「ああ、いいなあ…」。 ただそんな言葉しか出てこない。

夕方の雪のオレンジ色は、朝のオレンジ色よりも、 何だかやわらかくて優しい気がする。 私の気分のせいかもしれないけれど、 やわらかな雪の上に落ちる長い樹の影も、 やはりとても優しく、暖かく感じる。包み込まれるような、 どこかなつかしいオレンジ色。そのオレンジ色が終わると、 今度は丸みをもった雪面の凹凸のシャドゥの部分が、 ほのかなブルーになる。いかにも「もう家の中に入りなさい」 と言われているような、美しいけれどちょっと冷たいブルー。

それでもまだ一日は終わらない。去年の戸隠高原で、 新雪の晴天で満月の夜という幸運にめぐり会った。 見上げると、空には驚くほど明るい月と満天の星。 目の高さには、月明かりに照らされた、 どこまでも歩いて行けそうな森。そして下を見ると、 雪面にはくっきりと映る自分の影法師。さらに顔を近づけると、 粉雪の粒がひとつひとつ、月の色に輝いて、地面にも無数の星。 頭の上の星と足の下の星に囲まれて有頂天になっているところで、 その頃息子が読んでいた、 斉藤隆介氏の絵本「モチモチの木」に出てくる、 「満月の夜、勇気のある子だけが見られる、 枝いっぱいに明かりをつけた木」を見つけてしまった。 なるほど、これだったんだ、と一人で納得。

こんなラッキーな日もあるから、 ネイチャースキーはやめられない。

(1998年1月23日掲載)

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