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足跡の変化で動きが分かる毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。 今週は長野県・立科高原に滞在している。 冬の初めは心配していた雪も、 今は充分な量になってホッとしている。 今年は本州の太平洋側を通る低気圧による雪が多かったため、 太平洋側の影響を受けやすいこの中信地域の雪は、 例年よりむしろ少し多いぐらいだ。 新雪の後は、動物たちの足跡もくっきりと残る。 足跡の中でいちばんよく見かけるのがウサギだ。 ウサギのようにジャンプする動物は、 前足にくらべて後ろ足が極端に大きいのが特徴だ。 跳び箱を跳ぶように、まず前足をついて、 その前方へ後ろ足を着地させる。だから進行方向に対して、 後ろ足のほうが前につく。 そして前足は縦に並べるのがウサギの特徴で、 足跡は大きなハサミを持ったロブスターのような、 おかしな形になる。 ウサギの体にくらべて、足跡は意外なほど大きい。 新雪についた足跡を上からのぞき込むと、 指を目いっぱい広げて、もぐるのを防いでいることがわかる。 足跡の間隔が30〜40cmなら、のんびり歩いているとき。 あちこち食べ物を捜しながら歩いているようすがよくわかる。 これが大急ぎで疾走しているときだと、 2m近い間隔のジャンプになる。雪面を擦った指の跡から、 何物かに追われている緊迫感が伝わってくるようだ。 立ち止まると前足を横に並べて、 後ろ足の前にちょこんとつくので、 すぐにそれとわかる。止まって何をしたのかな? と周囲を見てみると、雪面から出ている小枝の表面に、 子供の前歯ぐらいの大きさでカリカリとかじった跡があったり、 また先端の冬芽が鋭いナイフでスパッと切られたようになっていたりする。 後ろ足の間に、小さな丸い落とし物が見つかることもある。 手にとって分解してみると、オガクズのようないい香り。 あの「ウンチのにおい」ではけっしてない。 「これは東京のデパートで“森の森林浴” というネーミングで1個100円で売られています。」と解説すると、 信用する人までいるぐらいだ。 立ち止まったのだけれど、 食べたりウンチをしたりした跡はないこともある。 止まった前方を見てみると、何ともいい山の風景。 ウサギも景色を見たのかなあと、 なんだかほほえましくなってしまう。 たまには実物のウサギの姿を見かけることもある。 昼寝していたウサギが、 私たちの気配に気がついてポーンと飛び出してくるのだ。 こんなとき、その足跡の先ではなく元をたどると、 ウサギの寝床を見つけることができる。 木の根元に自然にできる雪洞や、 雪の重みで垂れ下がった針葉樹の影など、 感心するようなうまいところに寝ている。 よくみるとウサギ型に雪が解けて、 つい今しがたまでウサギがいたようすがよくわかる。 ちなみにウサギは毎回寝場所を変えるので、 こうしてのぞき込んでも心配ない。 こんな推理ゲームをしているうちに、 自分たちがウサギと同じ軌跡をたどっていることに気がつく。 ヤブを寝かせる雪と、自由に動けるスキーのおかげで、 森の動物たちと同じ行動ができる数少ない機会が、 ネイチャースキーだ。 (1998年2月8日掲載) |