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動物を観察し自然共有実感毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。 先週はウサギのお話をさせていただいたが、 野山で見かける足跡はもちろんウサギばかりではない。 例えばキツネ。狩りをする動物は、 草食動物のように食べ物を求めてあちこち寄り道するような歩き方ではなく、 獲物のにおいを求めて直線的に進む。 とくにキツネの足跡はこの特徴が顕著で、 二つの点々が雪原をどこまでもまっすぐ伸びていくようすは、 孤高の気品さえ感じられる。 ときには夫婦らしい二頭の足跡が、 並んで続いていることもある。途中で分かれたり、 またくっついたり。キツネとウサギの足跡が、 ずっと重なって続いていることもある。 ウサギが走っていないところを見ると、 足跡をキツネが追っているのだろうか。 それをたどる私たちも、何だかドキドキしてくる。 ウサギのほうも、規則的に続く足跡が、 突然一箇所だけ間隔が狭くなり、 しかもその一つだけ180度反対を向いていることがある。 これはウサギの偵察飛びという歩き方で、 ときどき180度回転のジャンプを混ぜて、 周囲に気を配っているらしい。また、 急に向きを変えて今来た足跡を逆にたどり、 突然横に飛んで足跡をくらます、 「とめ足」というワザを使うこともある。 しかし人間でも簡単に見破れるこのワザが、 優秀な狩人であるキツネに通用するとも思えないのだが。 さて、キツネとは対照的に、 どことなくユーモラスな足跡を残すのがタヌキだ。 優雅にまっすぐ続くキツネに対し、左右の間隔の広い、 少しヨタヨタとした感じの足跡が特徴で、 こんな歩き方をするからトックリを下げて立たされてしまうんだと、 思わずほくそ笑んでしまう。おまけに足が短いため、 少し雪が深いとすぐにおなかをこすった跡がついてしまう。 これに親近感を覚える人も多いとか。 他の季節に野山を歩いていて、 私たちが野生動物の存在を実感できるチャンスは、 あまり多くはない。彼らの多くが夜行性で、 しかも他の季節にはヤブに隠れていて、 たとえ5m先にウサギが寝ていても気づかないからだ。 しかし今は50m先をウサギが横切っても見えるし、 雪についた足跡から彼らの生活のようすを、 探偵気分で楽しみながらリアルに想像することができる。 ウサギ、キツネ、タヌキ、リス、カモシカ、テン…… これらの動物たちが、図鑑やテレビの世界ではなく、 今この森に暮らして、 同じ空気を吸いながら同じ時間を共有しているということ。 そのことを実感できる機会は、 現代の日常生活の中ではごく限られている。 そしてともすれば街の中では、 人間が人間だけの力で生きているような錯覚を起こしてしまう。 食べ物も、水も、空気も、生きていくのに必要なすべては、 他の生き物とのつながり抜きにはありえないにもかかわらず。 ネイチャースキーは、 地球の上で暮らしているのは人間だけではないという、 本来はごくあたりまえの感覚を、 体で実感できる場なのだと思う。 (1998年2月15日掲載) |