木風舎 自然を感じるネイチュアリングスクール

雪の森を歩こう

毎日新聞に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録しました。


滑り上達すれば世界も広がる

毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。

ネイチャースキーはゲレンデスキーと違って、 スキーで滑ることよりも、自然と出会い、 自然から何かを感じることが、より大きな目的だ。 だから技術や運動神経にかかわりなく、 その人なりの自由な感性で楽しめる。しかし、 だからといって滑る楽しみがないかというと、 もちろんそうではない。やはりスキーである限り、 滑るという遊びの要素は大きい。 ネイチャースキーの数多くの楽しみの一つとして、 滑ることの快感があると言えるだろう。

たとえ平地でも、 一歩を踏み出したときにスキーが滑ってゆく感覚は、 たまらなくおもしろい。 普段の一歩は数10aの歩幅でしかないのに、 スキーで歩けば一歩で数b進むこともある。 動力も何も使っていないのに、 自分の行動能力が大きく変わってしまう、 何とも不思議な感覚だ。これはちょうど、 初めて自転車に乗れたときの嬉しさに似ているかもしれない。 全身から喜びが沸き上がり、思わず大声で「I'm Free!」 と叫びながらどこまでも進んでいきたくなる、そんな感覚だ。

平地ですらそうなのだから、斜面を滑るのはさらにおもしろい。 今は群馬県・玉原高原に滞在している。 ここには関東一と言っていいぐらいの、 ブナの大木の森がある。その大木の間を縫いながら、 ふかふかのパウダースノーを滑るのは、 もう快感のひとことに尽きる。 スキーは雪に潜って見えないのだけれど、ほとんど抵抗はない。 何だか雲の上を滑っているような気分で、夢見心地の恍惚状態になる。

テレマークスキーで滑るときは、 カカトの上がる不安定さをカバーするために、 両足に前後差をつけたテレマークターンという技術を使うと安定する。 これができれば動きがより自由になるし、ちょっとカッコイイ。 もちろんプルークボーゲンでもOKなのだが。 そしてゲレンデスキーのブーツより柔らかいので、 ぱふぱふの雪の感触がダイレクトに体に伝わる。 雪という自然と、足裏でコミュニケートしている感覚だ。

深雪は転んでも痛くないし、スピードもあまり出ないので、 みんな普段の自分では行かないような斜面に喜々として飛び込んで、 そして豪快に転ぶ。転ぶと雪煙が舞い上がり、 髪の毛まで真っ白、そして頭の中も脳みそまで真っ白。 転んだ顔が、みんな笑ってる。どの顔も、どの顔も、 とても幸せそうに笑ってる。転ぶと悔しいゲレンデと違って、 転んでもみんな笑ってるのが、この遊びの特徴かもしれない。

転んでふと見上げると、 アカゲラがすぐ近くで平然と木の幹をつついていた。コツッ、 コツッとくちばしでついばむ音が、驚くほどはっきり聞こえる。 私たちを見下ろす、大きなブナの木。 その幹には苔が模様のように生え、 二百年近い生命の存在感が、静かに伝わってくる。 新雪で縁取られた枝。雪の粒で光る梢のその先を、 白い雲がゆっくりと通り過ぎる。私の中を、 ブナの時間が流れる。この静と動の絶妙な組合せが、 私たちをますますネイチャースキーにのめり込ませる。

(1998年2月22日掲載)

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