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スキー場に音楽は必要か毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。 群馬県・玉原高原のブナの森を、 毎日スキーを履いて彷徨している。 深呼吸しながらゆっくりと、 森の精気を吸い込むように散歩する。 ブナの森に流れる時間が、少しずつ私の中にも流れ始め、 心のギザギザがだんだん丸くなってゆくのがわかる。 至福のときの中にも、一つだけ気になることがある。 スキー場から流れてくる音楽だ。 スクールの参加者の感想の中にも、 「あの音楽さえ聞こえてこなければ」という言葉が必ず出てくる。 ここでひとつ、スキー場の音楽について考えてみたい。 私たちも、滑りの練習にはスキー場を使うことがある。 私たちがよく使うスキー場の一つに、 長野県の戸隠スキー場がある。このスキー場の、 のんびりした雰囲気はとても好きだ。スキー場は村営で、 食堂も周囲の宿泊施設も、 すべて地元の人たちの経営なのが、なによりもいい。 東京の大資本が利益の大部分を持っていってしまうスキー場や関連宿泊施設の、 何と多いことか……という話はまた別の機会に回すとして、 戸隠のリフトで隣合った人と話をしてみると、スキーは毎年ここ、 と決めているファンが多いのに気がつく。理由を聞けば、 コースに変化があり、滑りながらの景色がいい、などの答えとともに、 「音楽がないので静かでいい。」という声が、 これらの固定客には圧倒的に多い。こうなると、 音楽=サービスなのだろうか、という疑問はますます強くなる。 たしかにリフトの支柱ごとに設置されたラウドスピーカーから、 ひび割れた音が鳴り響き、 スピーカーの位置の遠近によってずれた時間差で襲ってくるのは、 都会の雑踏にうんざりしている人には耐え難いものだ。 私も大の音楽好きで、 部屋や車の中ではいつも聞いているのだが、 スキー場でひび割れた音の絶え間ない「ずれた輪唱時間差攻撃」 を受けるたびに、やはり音楽にはTPOが大切なんだなあと、 つくづく感じてしまう。 ヨーロッパやカナダなどのスキー場で、 音楽が鳴り響いているのは聞いたことがない。 遊び感覚が大人なのだ。そういえば日本では、 湖の観光船の発着場などでも場違いな音楽を鳴らしていることがある。 これはきわめて日本的な現象なのだろう。 日本でも志賀や妙高などの歴史あるスキー場や、 リゾート感覚を売りものにするスキー場には、 やはり音楽がないことが多く、落ち着きを感じさせる。 日本人のレジャー感も、宴会・物見遊山型から、 滞在・ゆったり型へと少しずつ変化してきているという。 スキー場もその変化を読み取り、 遊び感覚を洗練させないと、 見当違いのサービスを提供することになってしまう。 私は自然のサウンドだけで充分なのだが、 もしリフトに乗っている間が退屈だという人もいるのであれば、 音楽をかける場合でも、 せめてリフトに乗っている間だけ小さく聞こえる程度の、 音量とスピーカー配置にしてみてはどうだろうか。 全山を揺るがすようなひび割れた音をやたらにまき散らすのは、 やはりダサイことだと思う。 (1998年3月1日掲載) |