木風舎 自然を感じるネイチュアリングスクール

雪の森を歩こう

毎日新聞に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録しました。


自分だけのスポットを探す

毎日新聞日曜版に連載された、橋谷晃の「雪の森を歩こう」を再録します。

3月に入ると、雪国でもぽかぽかと暖かい日が多くなる。 積雪はまだまだ道の両側に壁をつくるほどたっぷりあり、 雪は適度に締まって歩きやすくなるので、 ネイチャ−スキ−を気軽に楽しみやすいシ−ズンといえる。

うららかな春の日差しの下、 のんびりと林の中を歩いたり滑ったりするのは、 真冬の凛と澄んだ空気とはまた違ったリラックス感覚がある。 1〜2月はふかふか雪の感触を楽しみ、 光と雪が織りなす繊細な美に酔い、 森の静寂の声を聞く。3〜5月はスキ−の軽やかさが快く、 明るい陽光の中でのびのびと遊び、 これから萌え出ようとするいのちの鼓動を感じる。

何はともあれ、風景を見ながらボ−ッとたたずんでも、 グロ−ブをはずして作業していても、 寒くならないというのは心身を緩めるのにはいい。 そしてツ−リング中の大きな楽しみであるランチタイムをゆっくりと過ごせるのも、 この時期の大きな魅力だ。

私が今滞在しているのは、長野県・戸隠高原。 ここの森林植物園から戸隠牧場へとスキ−でハイキングする間に、 私のお気に入りのランチスポットがある。 ハンノキやカラマツの林がぽっかり開けて雪原が広がる、 不思議な空間。夏は湿原なのだろうけれども、 その頃に道は通じていない。 ここからの戸隠山の眺めが、じつに良い。

この開放的な空間に、 自分だけの踏み跡を描きながら入って、 まずスキ−を脱ぐ。スキ−を雪の上に並べ、 その脇の雪をブ−ツでドンドンと踏んで凹みをつくり、 スキ−の上に断熱マットをかければ、快適な椅子の出来上がり。 山が正面に見えるように腰を下ろす。  ザックを開けて、ポットからまず熱いココアを一杯。 人によってはワインのコルクを抜くか、 缶ビ−ルをプシュッと開けるのだろうけれども、 アルコ−ルが飲めない私はココアのカップを捧げて、 目の前の素晴らしい雪景色に乾杯。

それからおもむろに携帯スト−ブとクッカ−を取り出し、 調理にかかる。湯が沸いたらコンソメキュ−ブを放り込み、 荒挽きウィンナソ−セ−ジ、コ−ン、 塩コショウを入れる。その間にライ麦パンをスライスして、 クリ−ムチ−ズ、サ−モンパテ、クレソン、 ハチミツなどを並べる。ス−プを保温カップに注ぎ、 ライ麦パンの上に適当なものを乗せてパクつく。 目の前に広がる戸隠山は、ゴ ツゴツした黒い岩肌と白い雪のコントラストが見事で、 ちょっと日本離れした容貌だ。 これが最高のメインディッシュ。 もちろん、食後のコ−ヒ−もドリップする。

マットの上に、そのままゴロンと寝転ぶ。 鳥たちはそろそろ春のさえずりを始め、 キツツキのドラミングが森にこだまする。 このままうとうと寝てしまおうか。 この時間をどう使ってもいいのだから。

(1998年3月8日掲載)

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